2015年12月8日火曜日

瓦解

全世界のアクアリストが知っているグローバルな
アクアリウムの巨人、エーハイムが日本市場(と米国市場)からの
撤退を決定しました。これが意味することはとてつもなく
大きいと考えられます。

すでに公表されていますが、神畑養魚株式会社が日本における
エーハイム総代理店と言う形で製品供給を引き継ぎました。
これは安易に、「神畑恐るべし」「神畑凄い」、ではないのです。
もちろん、神畑の存在が無ければ、エーハイムの日本への
供給は一旦は絶たれたことは紛れもない事実ですが。。。

グローバル企業になると、売れる商品に国民性・民族性が
影響することも考え、マルチドメスティックマーケティングを
行っているでしょうから、例えばエーハイムだと日本向けは
昔と異なり、小型水槽とその周辺器具など、近年の製品構成
と言うものがあったと思われます。
もちろん、2213等は定番中の定番であり、我々世代あたりから
上には外部濾過機はエーハイム、と言うのが根底にあり、
減りはすれど外部濾過機としてのエーハイム需要は存在します。


ただ、長年の不景気ですっかり市場が縮小してしまった日本市場は
天災と電力事情も重なり、消費マインドの低下に拍車が掛かり
ますます矮小化しています。
そして日本市場にマーケティング費用や人件費を払ってまで
自社で展開を続ける意味が無いという経営判断が下ります。

すなわち

「日本のマーケットでは収益化は不可能である」

と断じたのです。
アクアリウム先進国・大いなる先人から見放されたことになります。
ドイツ以外の売上高が最も高いにもかかわらず。
もちろん、市場のみが悪者と言うわけではありません。ただし、
そういう方向へ暗に導いてしまったのは紛れもない事実です。

翻って国内事情です。なぜこうなったかを考えてみたいと思います。

2004年7月26日、JASDAQ上場の国内最大手の水槽器具メーカー、
株式会社ニッソーが民事再生手続き開始を申し立てました。
負債総額は約95億。その後、株式会社マルカンに吸収合併される
ことになります。
このような大きな動きの裏には様々な状況の悪化、すなわち
観賞魚業界の低迷と価格競争の激化と言うものがあります。

大小問わず、近年はショップや問屋、メーカーの閉店・廃業が
目立ちます。本当にネガティブな動きしか見られません。
そんなことはない、凄い店は凄い、と言う声もあると思います。
もちろん、どの業界にも一握りの成功者はいるものです。
ただ、一般の方々から見ているのと業界内部から見ているのでは
見え方が違います。

また、水草界の出来事ですが、器具メーカーが生体を販売するという
事態となっています。
これは2つの側面を持っています。

ミクロ的には良い面として、魚以外の生体は同社製品で
すべてが揃うということです。1から10まで自社製品で
完結させられる、すなわち器具を揃えてセッティングする
ところから、素材を配置し、水草を植えて育成、そしてレイアウトの
完成までのノウハウをすべてマニュアル化出来、非常に
わかりやすく提供できると言うことです。
これは水草水槽を始めたいという人や、説明をするショップに
とっては大変便利なものです。
きっちり教科書として機能しているので、レイアウトの完成までの
道筋をしっかりと歩むことが出来ます。

少し視野を広げて考えると、生体(水草)を輸入・生産して小売店に
販売している問屋の売り上げを奪うことになります。
つまり今までの流通をある意味覆したと言っても良いでしょう。
また、収益を考えた時に自社で生産した生体を販売するのと
既存の工業製品を仕入れて販売することを比較すると
やはり利益率が大きく違うと考えられます。
現在の水草業界では収益構造の転換を図らないと、維持が
困難になるのだろうと思います。

つまり、現在の業界の状況はそのくらい疲弊しているのです。


また、アクア内通販業界を考えると、このご時世です、当然
価格競争にさらされます。エーハイムのメインはもちろん
外部濾過機です。ある程度のサイズの水槽からは基本的に
外部フィルターになるので、まずエーハイムとなるわけですが、
やはり通販になると、みなさん価格を比較します。
もちろん、フィルターだけ買って終わり、と言うこともあるかも
しれませんが、普通はせっかくだからと色々部材を買うことに
なります。
多くの場合は、そのついで買い需要の部分に利益率の
高いものがラインナップされていると考えられます。

そのついで買いを誘うために定番のエーハイムの価格を
下げる、と言う手法をとるわけです。そのため、エーハイムの
仕入れ価格は安ければ安いほど良いということになります。
いつかはエーハイムと憧れていた、かつての立ち位置とは
比べ物にならない扱いになってしまいました。
安く売る、利益は薄い、それならば数を売らねばならない、
そして更に数を売るために安く売る、悪循環でしかありません。

また、我々世代より上はドイツ(ヨーロッパ)信奉が大なり
小なりあって、その代表がエーハイムであり、デュプラであり、
デナリーであったわけです。それはまだ日本のアクアリウムが
発展途上にあり、ヨーロッパの知識を吸収しながら、模索していた
ためですが、近年はすでにすべてが揃っており、今の人々は
始めた瞬間から器具類は低価格で手に入り、情報はインターネットで
あれこれ収集できる(間違いも多いですが)という環境となっており、
ヨーロッパへの思いというものは希薄な世代であると考えられます。
我々の頃はエーハイム本体を買ってからが本番で、ダブルタップを
2つ買い、メックを買い、サブストを買い。。。と、基本的に高価なもの
と言うイメージがありましたが、現在は安くて当たり前、と言う
低価格が常態化してしまう環境にありました。

いくら売り上げが高くても、利益率が悪化の一途では
存続する意味はなくなるのです。当たり前ですね。人を雇い、
場所を借り、商品を動かし、結果安売りのイメージだけが残り
他は何も残らない。
少し前から、エーハイムジャパンがそれらを払拭すべく方向転換を
行ったようですが、それまでの蓄積が大きすぎたようです。
そのことは非常に残念でなりません。

バブル崩壊後の景気後退によるデフレ、そして消費マインドの
低下がもたらした、販売価格や仕入れ価格への下方バイアス。
市場の矮小化によるパイの奪い合いが招いた価格競争の激化。
天災および電力事情による観賞魚業界の低迷。
節約志向による価格での選別および、ネット通販の台頭による
一極集中化が及ぼすショップ離れ。
それらからくるメーカーの影響力低下。低価格販売の常態化。

バブル期からその残り火の間に膨張した観賞魚業界は
反転縮小する中で、すべての住人を賄うことは出来なかった。
以前ここで、業界の衰退が顕在化してくるであろうと書きました。
今回の1件もその1つです。
このままの状態だとまだまだ気を緩めることはできないでしょう。

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