2018年8月26日日曜日

水草水槽的キャズム〈4〉

結局、水草水槽と言うものは少数の興味を持った層が
飛びついたものの、当時の専用器具や特殊な栽培ノウハウは
マニアのものであり、アンテナを張っている新しいものを
積極的に試したりする人たちの中から、極一部が
ハマっていっただけでした。

メーカーが自社製品でのメソッドを確立して
美しい写真や器具と共に一般層に向けてアピールし、
それなりの効果はありました。
しかしながら、それは結局別のタイプのマニアを
生み出したに過ぎません。
また、各所から比較的安価な水草器具のラインナップが
発売されてみたり、安易な水草育成用のアイテムを
並べ立てたりしても、単に初期投資の低さや効果が
あるかどうかわからないアイテムなどの使用は
長続きするものではありません。

私も考えたことがありますが、色んな業界人や
著名人が水草レイアウト水槽を文化にする、
または一般に広めると言った理想を唱えますが、
数十年を経て、水草水槽・水草レイアウト水槽と言う
ジャンルは、結果的にキャズムを超えることが
出来なかった。

そして、ただでさえ狭いアクアリウム業界の中でも
更にニッチなジャンルとなっています。

個人的にはニッチでマイノリティ大いに結構と
思っているのですが、まぁ普通はそうもいかないため
なんとか裾野を広げようとか一般化させようと
考えることもあろうかと思います。
ただ、残念ながら日本では不可能と言って間違いない。
植物を愛でる素養があるのと、特定のジャンルが
大衆文化として定着するのとはイコールでは
ありません。まぁそんなものにする必要が
あるとも思えないのですが。
また、CtoCの市場規模拡大も残念ながら業界には
全くプラスに働かないと考えられます。

そういった中で無理に広めようとすると歪みが
生じるため業界自体が自己矛盾を抱えることとなります。
今一度冷静に現状なり水草水槽と言うものを
見つめ直した方が良いのではないかと考えています。

まぁ何にでも当てはまりますかね(笑)


水草水槽的キャズム。。。終わり


2018年8月25日土曜日

水草水槽的キャズム〈3〉

水草水槽を始めた人の多くは、相当な気合を入れて
と言うよりも、ちょっとやってみようかなと言った
感じだと思います。
もちろん、最初に書いた通り設備投資と言う
溝を超えるのはなかなかのパワーを要します。
しかしそれはまだ漠然とした希望の中で
通過しています。

前回で述べた通り、セッティングと植え込みまで
辿り着いてもその後には更に大きな溝が
待ち構えています。

それは生育の良し悪しと藻類の発生です。

始めるきっかけとなった綺麗に管理された
写真や店頭で見た水槽のようになるはずの
自宅の水槽が、茶色や緑の藻類に覆われ
見るのが苦痛になったり、這うはずの水草が
上に育つ、赤系水草が緑になる、と言った具合に
水草が想像とは異なる成長をしたりするのです。

ただ、それなりの金額を投じ、手間をかけて
ここまで来たのだから、心理的にはそれを
正当化しないといけません。
もちろん、まだまだ理想を追求するだけの
モチベーションは残っていると思いますが、
この後引き続き水草水槽をやっていくことを
考えるとこの辺りもかなり大きな溝となります。

理想と現実のギャップを目の当たりにして
そこと向き合えるか、楽しめるかどうか
と言うところにかかってきます。

そこに対してしっかりと取り組み、
起こった事象を次の行動にフィードバック
出来るか、そして異なる目線で観察して、
現実を受け止めて対策を講じると言った
面倒くさいことを自分のペースで楽しみながら
出来るか、と言うところをクリアできると
ようやく趣味として成立し始めると思います。

そしてこれが数か月くらいかけて進行します。
この期間の躓きや予定と違う出来事は
初期投資を回収しなければ言う気持ちを
徐々に薄れさせ、何かと理由を付けて
無かったことにさせるには十分な効果を
発揮します。

そのうちボンベの交換も怠り、ボンベは空のまま
繋ぎっぱなし、使いかけの肥料も放置。
思い出したように置くだけの水草や鉛巻を
買ってきて漫然と続けることでしょう。
そうなると、そこにあるのは純然たる水草水槽では
なくなり、水草の植わった熱帯魚の水槽に変貌します。
ただ、それはそれで水槽や濾過器などは
無駄にならないので許容してしまうんですね。

もちろん二酸化炭素無添加の水草水槽も存在
しますが、当初の目的とは異なり、道を逸れて
しまったこういったシーンは、販売された
二酸化炭素添加器具の数のうち、かなりの割合で
起こっていると想像しています。


。。。続く

2018年8月23日木曜日

水草水槽的キャズム〈2〉

前回は水草水槽と言うものを始めるにあたって
設備投資と言うものが必要で、それが売り手にも
買い手にも大きな溝であることをお話ししました。
「売り手にも」と言うところもポイントなんですね。
この辺はまたいつか。

そして、その初期投資が行われた後には
どう言った困難が待ち受けているのかを
更に見ていこうと思います。

早速、ソイルを敷いて水を張って、炭酸ガスの
器具やフィルターを設置してたとしても、
それはまだ競技場に入ったくらいでスタートラインにも
ついていないのではないでしょうか。

まずは水草を植えるためにハサミや道具が必要です。
その金額もネックであり、かと言ってあまり安いものを
買ってしまうと、後々疲れる羽目になります。
ハサミはひとまず安いものでも良いのですが、
ピンセットは重要です。

そして水草を買ってきて、植える前に下処理が
必要です。下処理もその水草が鉛巻なのか
ポットなのか、はたまた組織培養カップなのかで
変わりますし、国産無農薬なのか薬品の
心配がある輸入なのか、有茎なのかロゼットなのか。
書き出してみるとたくさんありますね(笑)

下準備が終わったら植え込みですが、
これがまた慣れないと相当苦労します。
初期投資に比べると上記の点はやや小さい溝なので
クラックと言ったところでしょうか。

ただしここで面倒になり、適当に植えて、
あとはショップで薦められた置くだけの
水草を思い出し、購入してきてしまうことも
あろうかと思います。
ショップ側の人間も、水草水槽が簡単で
あることを伝えるために置くだけの水草を
推してしまうケースが多々あるかと思います。
そして残念ながら初期段階でそちらに行ってしまうと
深入りする可能性が下がってしまいます。

とは言え、多くの場合まだこの辺では先に
訪れるであろう美しい水草水槽を想像しているので、
モチベーションは維持されているかと思います。

その後しばらくは、水上葉から水中葉への変化や
ソイルの効力での成長などもあって、順調に
動いているように見える時期に入ります。
なるほど、水草水槽は楽しいものだ、と言う
期間でしょうか。

ここまでもなかなか面倒でした(笑)
しかしその後にはまだ超えなければならない溝が
存在するのです。


。。。続く

2018年8月21日火曜日

水草水槽的キャズム〈1〉

以前の水草水槽では底床は主に大磯が使われ、
炭酸ガスの添加器具で入手しやすかったのが
テトラの低圧ボンベ(拡散筒に貯めておくタイプ)
であったため、多くの量を添加するのには
手間か工夫が必要でした。

その時点でかなりハードルが高く、水草の
栽培は比較的マニアックな世界だったと
思います。

しかしながら水草水槽は以前より
難しくなくなりました。なぜかと言うと、
昔に比べ良い性能の器具類が簡単に
揃えられるようになったこと、ソイル系底床の
登場などがあったからです。
これによって「形から入る」ことで
とりあえず様々な水草を育てることが
可能となりました。

とは言うものの、水草水槽を始めてもらおうと
した場合、まず初めに単純に魚を買う以上に
設備が必要です。つまり初期投資が多いのです。
これは相当大きい溝であり、まずここを
超えることが困難です。
金額的に、綺麗な写真を見ただけではなかなか
踏み切れないものがあるのではないでしょうか。
これにより、多くの人が水草水槽を始めません。
販売する側からするとこれは避けることの
出来ないかなり大きめの溝です。

そこで店頭に綺麗な水草水槽があり、実物を
設備込みで見ることが出来た場合、水草水槽が
どういったものなのかを実感出来る可能性があります。
そうすると、その実感を自分の物として想像できる人が
何人かは出てくることがあり、その溝を超えて
始めてみようかとなる場合があります。
もちろん、一度見ただけでは決心がつかなくても
気になってる状態で何度もショップで見ていると
やってみようかという気になることがあります。

やはり実物と写真は違います。
この辺が、実際の店舗の存在意義の1つ
ではないかと思います。

ただ、この初期投資をして水草水槽と言う
趣味を始めることで、投資した以上の対価、
すなわち楽しみ・やりがい・満足度などが
回収出来るのか、それなりの金額を投じたのに
結局途中でやめてしまうのではないか、と言う
不安は意外と大きく、かなり大きな溝となっています。

この溝を超えるの人がまず少ない。
そして幸か不幸かその初期投資を越えたとしても、
その後も水草水槽を継続し、自身の趣味に
昇格するまでにいくつもの溝が存在します。


。。。続く

2018年8月12日日曜日

不可逆的境界


ちょうど8年前にこんな記事を書きました。
水草と園芸に垣根はあるのか

私は水草の人でダッチアクアリウム好きなので、
この記事の内容にもある通り水草以外の水槽外で
育てる植物は装飾だったり気分転換だったり
と言うのが出発点です。

過程は端折りますが、その後は採集者が持ち帰る中身は
水草から陸上植物にシフトし、水草が売れなくなった
こともあり、水草が持ち帰られることは殆ど無くなりました。
もちろん、私自身アグラオネマ ピクタムをアクア業界に
持ち込んだ張本人でもあり、それらを「面白い!」と
思ったことは、現状を考えるとそれは間違いでは
なかったと言え、答え合わせてはさせて頂いております。

ただ、個人的には水草があるのが前提で、水草を
やりつつリ陸上植物を買ってケースを増やしたり、
陸上植物に興味のあった人が水草の存在を知るように
なったりと言った具合に双方向の流れを想定
「したかった」のですが、やはり水草水槽と言うのは
特殊過ぎると言うことがあるのでしょう、
当然のように陸上植物由来の方からの流入と言うのは
見込めませんでした。
こちらも答え合わせと言ったところでしょうか(笑)

しかしながら逆はかなりの速度で進行しました。
もちろん他の理由も色々あるのですが、入荷自体が
そういった陸上植物がメインとなったことや、
それに合わせて植物の即売イベントや外部からの
参入、更にはもっと大きな潮流などが影響を
及ぼしていると考えられます。

外部や大きな潮流とは、以前の記事にも書いた通り、
良くも悪くも世間を賑わしているこう言った状況を
指しています。
見えざる手
コマーシャリズム

そして結果的には予想通り水草とそれらの植物は
殆ど切り離された状況になっています。
→その手は「水草」を動かさない

もちろんそれが悪いこととは思っていません。
しかしそこには境界が存在していることを何年か
かけて確認することが出来、これもまた答え合わせが
完了した次第です。

そして、元々は熱帯魚の飼育と水草の育成を
趣味としていた人々は次々と上陸を果たしました。
その境界をすり抜けて行くと、その後ろには
戻ることも壊すことも困難な、通った時とは異なる
大きな境界が横たわっているのです。