2010年12月に“水草水槽は本当に「癒し」なのか”と言う
内容の記事を書きましたが、あれからいくらかの月日が経過しました。
当時はまだ景気の先行きは不透明で、世間の雰囲気も良いとは
言えなかったと思います。
現在、景気の持ち直しの「兆し」が、見えてきたかもしれない、
と言うところに差し掛かっていると思いますが、そうなった今は
どうでしょう?
個人的には何も変わることはありません。答えは「No」です。
また、水草水槽についての癒しの部分とは何を指しているのでしょうか。
特に趣味性の強いアプローチにおいて、またそこにターゲットを
絞ってアピールしているショップにおいて、水草水槽が「癒し」で
あるわけはないのです。
趣味家の場合は、前回の記事に挙げたような事柄のため
癒しでない部分が99.9999%を占めているでしょう。
では「癒し」であることをコピーにして売られている形態を
考える事にします。
基本的には即持ち帰れるように「小型」であり、お手軽感が
必要なため「セット済み」であることがしばしば見られます。
なるほど、小型なために置き場所を選ばない、セット済みで
あるため、水を入れればその日から大した手間もかけずに
「完成品」で始められると言ったところでしょうか。
ここに落とし穴があります。
まず「小型」と言う点。これは容易にスタートできる半面、
簡単に撤去できるのです。つまりやめやすいと言う事です。
次に「完成品」と言う点。初心者が完成品を持ち帰ると言う事は
器具や生体等を揃えてきたところから、現状に至る過程を
全て「すっとばして」、いきなり色んな部分が「ピーク」の
状態がスタートとなります。
すなわち、下り坂が殆ど確定的な上にやめやすいものから
スタートするのです。その後の展開は想像に難くありません。
次に、一からスタートする場合を考えます。
以前より徐々に器具類の単価は小型水槽関連の
ハードの増加により(後述)、購入するハードルが
下がっているわけですから、新たな購入者は
一定の割合で存在すると思われます。
ただ、小型水槽を状態良く維持するにそれなりの
知識、または経験や手間が必要で、入門関係の書籍や
特集には、水槽は小さいより大きい方が安定する、
と言った記述があるはずです。
小さい水槽は水槽寿命のサイクルが速いのです。
状態が崩れた際に探究心や興味を持ってその状況に
取り組める人、やめてしまう(=殆ど放置する)人に
分かれると思いますが、後者が多いことは想像に
難くありません。
話が前後しますが、現在の社会情勢では中~大型水槽を
設置するのはなかなか難しいと考えられるため、60cm
レギュラー水槽以上の動きがかなり悪くなっているだろうと
想像できます。そのため、小売店もメーカーも上述のように
比較的容易に始められる小型水槽を推し始め、今まで
主力であった60cmレギュラーやそれ以上の水槽と比較して
小型水槽の販売数量が徐々に増加したと考えられます。
そこで業界全体が比較的容易に売り上げが立つであろう
小型水槽への大いなるシフトが始まりました。
それはここ数年の新製品を振り返ると一目瞭然です。
「癒し」「簡単」「お手軽」と言った落とし穴だらけの
フレーズと共に、以前は周辺機器が60レギュラー水槽より
割高だった小型水槽は一気に主力にのし上がりました。
新製品と言うのは一時的に出荷数が増えます。そして
価格面での制約が無くなったので比較的売れたのでしょう、
新製品が乱発されます。
小型水槽を購入したとして、魚は何匹入るでしょう?
水草や底床材、その他消耗品にかける金額はどうでしょう?
そもそも水槽や器具は生体を購入してもらうための
足がかりに過ぎません。
その「うつわ」が致命的に小さいのです。
魚は小型魚数匹、水草は鉛巻2つ、底床材は2リットル。
これが60cmだとどうでしょう?
小型魚3~40匹、水草は鉛巻5~10にポットを3つ
底床材は8リットル。
小型水槽が主流となってしまうと、泳がせる魚の数量は
もとより、種類にも大きな制約が生まれます。
淡水熱帯魚で屈指の美しさの一般種、カージナルテトラを
考えてみましょう。S水槽に入れれなくもないですが、
体長を考えるとやはり窮屈です。次に価格的に少し上の
ラミーノーズを考えてみます。水槽内を疾走するような
彼らはサイズこそカージナルより少し大きい位ですが
60cmでもその良さは活かしきれないでしょう。
卵胎生メダカのモーリーやプラティも最初は良いですが
親サイズになれば手狭でしかありません。
ましてやコンゴテトラクラスの魚は買うことが出来ません。
そうなると小型水槽が広まっても肝心の生体の販売の
数・種類共に極端に少なくなるのです。
そうなると、売れる魚種が限られるので、小売店や
問屋も魚種をシビアに絞り込まなければなりません。
外すと不良在庫化しかねないからです。
つまり、どの小売店に行っても同じものが並ぶと言う
事につながります。
すなわち小売店の個性の消失です。
個性の問題は、別の意味でも深刻化していますが
それはまた別の機会にと思います。
容易に売れる方向へ傾いてしまった結果として
業界全体が水槽を購入した先に待っている、本来最大化を
図らねばならない生体の需要を自ら矮小化してしまったと
言えそうです。
これが時代・業界の趨勢と言ってしまえば
それだけかも知れません。またそうしなければ
生きていけなかったのかもしれません。
此処で述べていることも結果論であると思います。
もちろん、メーカー、問屋、小売店にすべての
責任があるわけではありません。
ただ、アクア業界はこのようなスパイラルに
陥っていることだけは事実だと思います。
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